「世界陸連がナイキの厚底シューズ禁止の方向」に私が猛反対するワケ

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兼ねてから噂されていた、ナイキの厚底シューズの規制がついに現実となってしまいそうです。東京オリンピックのマラソン代表はコースも変わるし、挙句にシューズまで・・本当に災難ですね。入念に準備していただろうに、かわいそうとしか言いようがありません。

ナイキ以外のメーカーからの事実上の白旗宣言とも受け取れる今回の件、なんでもナイキの厚底シューズを利用していないアスリートグループが世界陸連に問題提起したことがきっかけだとか。

それを受けて世界陸連は以下の規則に抵触していないか調査を行い、1月末ころに結果を発表するとのこと。「ヴェイパーフライ4%」が登場してからだと、ずいぶん時間が経つんですけど。。そうした怠慢を棚に上げ、よりにもよってオリンピックイヤーに規制をかけるとは・・(怒)

該当する世界陸連の規則とは・・

競技に使用されるシューズはすべてのランナーが合理的に利用可能でなければならず、不公平なサポートや利点を提供するものであってはいけない

「ヴェイパーフライ ネクスト%」が主なターゲットと思われる今回の件、予想していたとは言え様々な理由から怒り心頭なのですが、なるべく平熱で今回の問題点を綴ってみます。

著者は過去にサブスリーを8回達成しており、アシックスのシューズで4回、アディダスのシューズで3回、ナイキの厚底シューズで1回達成しました。そのため、ある程度の信頼性を持ってこの話題にコメント出来ると思います。

すべてのランナーが合理的に利用可能か?

一部のランナーにとって利用しがたい状況があってはならない、ということですが一体どこが非合理なのでしょうか。考えられる切り口を洗い出してみました。

  1. 価格帯
  2. 機能
  3. 供給

価格帯

「ヴェイパーフライ ネクスト%」確かにお高いですよね。約3万円ですから従来のシューズの倍くらいします。しかし合理的に利用できない、という程でしょうか。これまで1万5千円ほどのシューズを履きつぶしている人たちからすれば、ひと頑張りすれば買える価格と思います。もし価格がネックなのであれば、あと5千円ほど安ければOKという話になるのでしょうか?それも変な話です。そもそもトップランナーをターゲットとした規制とのことですので、実業団レベルの人がシューズを買うお金に困っている、とは信じがたい話です。

機能

飛躍的に向上しました。端的に言えば、これまでの初心者向けシューズは厚底で重くクッションが柔らかい特徴があり、上級者向けシューズは薄底で軽くダイレクトな接地感でした。これはクッショニングを確保しようとすれば素材を厚くする必要があり、厚くするために素材を多く使うと重くなるという必然性があったためです。そのため上級者向けシューズを履くにはダイレクトな接地に耐えうるだけの筋力が必要でした。

しかしヴェイパーフライシリーズは、従来トレードオフの関係にあった”クッショニング”と”重さ”のジレンマを”ズームX”という素材を開発することで一気にブレイクスルーしてしまいました。一言で表すなら5~10年先の技術を持ったシューズが突然、現代に舞い降りたという感じです。

この技術革新により、初心者~中級者であっても200g未満のレーシングシューズを履くことができるようになりました。これは果たして”すべてのランナーの利用可能性”に対して非合理であると言えるでしょうか?むしろ利用しやすくなっているように思います。

供給

前作の「ヴェイパーフライ4%」は生産が追い付かず、入手した一部のランナーを羨望の眼差しで見ていたものですが「ヴェイパーフライ ネクスト%」は知っての通り、マラソン大会のランナーの足元がグリーンとピンクに染まるほどに浸透しています。国によるかも知れませんが “入手のしにくさ” は理由では無い気がします。

ただ、東京オリンピックでは次世代モデルが一部ランナーに提供されるとのこと。タイミングから考えても、そのことを争点にしている可能性があります。

不公平なサポートや利点を提供しているか?

では、サポートや利点の公平性という点においてはどうでしょうか。

公平性

公平の定義がやっかいですが、最近の大きな大会の上位選手は、ほぼヴェイパーフライシリーズを履いているため、全く同じ道具で勝負しているという点において、むしろ公平に見えます。

しかしナイキ以外のシューズサポートを受けているアスリートグループが世界陸連に問題提起していることがきっかけであるということから推測すると、ナイキとそれ以外のメーカーとの比較が争点と言えそうです。

そうした場合、近未来とも思える技術と現代の技術との比較になるわけですから、素材がどうだ、プレートがどうだ、という前に性能に差がありすぎることが問題、という話な気がします。

つまり、ナイキが先を行き過ぎてしまい、ナイキとそれ以外のメーカーのシューズとの間に、不公平と訴えられるだけの差が生まれてしまった。。という図式です。

これを不公平というならば、これまでの”公平”とは各メーカーのシューズの性能がたまたま近かったことを意味します。

サポートや利点

初心者も利用可能なクッショニング、上級者が求める反発性、誰もが必要とする軽さ、空力抵抗への配慮・・現時点で考えられる全てが詰まっているかのようなシューズ。

クッショニングだけであれば他メーカーにも同等のものは既にありますし、反発性についても近いものはあると思います。軽さだけを見れば、より軽いものはたくさんあります。

しかしこの三角形の面積の大きさを他のシューズと比べたとしたら、コーンフレークの栄養素の五角形並みに大きすぎることでしょう。

各要素を数値化して面積を比較すれば、大人と子供のけんか並みに差が見えてきそうな気はします。

しかし、それぞれの要素は既存の技術を推し進めたものに過ぎず、これが果たして不公平なサポートや利点を提供していると言えるのでしょうか?

世界陸連の規則が定性的であり抵触の判断が難しい

何が言いたいかというと、規則が数値化されておらず定量的でないため、抵触しているのかどうか客観的に判断ができないということです。

わざと定性的に表現している、というのが私の予想です。

定量化すると、規定をクリアしたものはOKとなりますが、そのシューズがヴェイパーフライシリーズと同等の速さを持っていれば問題が解決しないからです。

定性的な表現とすることで、最終の判断を陸連側が握る目的があると思います。

ヴェイパーフライが禁止されると、誰が得をする?

今回の規制、誰得なんでしょう。ナイキは損害を被り、ヴェイパーフライを利用しているトップランナーは、わざわざパフォーマンスの劣るシューズに合わせる手間が増えてしまいます。

一方、ナイキ以外のサポートを受けているトップランナーは慣れたシューズでそのまま大会に出場できますので、ヴェイパーフライシリーズを履いていたランナーがシューズを慣らしている半年くらいはボーナスタイムがやってきます。

ナイキ以外のメーカーもメディアの露出が再び増えて、売り上げがアップすることでしょう。

世界陸連も規制に掲げている公平性を、ナイキの厚底シューズを履いていた人たちの偏差値を下げることで満たそうとしています。

様々な疑問

あるべきは姿は、ナイキ外のメーカーによる追従なのでは?

冒頭にも書きましたが、ナイキ以外のメーカーによる白旗宣言と思っています。

タラレバになってしまいますが、仮に主要メーカーが同等の性能を発揮するシューズを投入できていれば、ここまで揉めなかったことでしょう。

なぜなら、シューズはこれまでも開発・競合しながら記録の更新に貢献してきており、ヴェイパー以前のシューズでもマラソンを2時間3分台まで達成していました。

ナイキが先を行き過ぎただけのことで、ナイキ以外のメーカーも数年先まで待てば同じような性能のシューズを作ってくると思います。

一つの最適解がこの世に生まれ、これまでのシューズに対するマインドセットが吹き飛んでいるわけですから、他メーカーの開発はむしろ加速してくるはずです。

そうした開発の努力を待たずに規制をかける、というのは安直であり開発競争の側面からもナンセンスであると思います。

ナイキの厚底シューズによる記録はどうなる?

報道によると、記録はそのまま据え置きになりそうとのこと。ただそうなると、規制に合致する速いシューズが開発されるか、他メーカーが相対的に追いついてくるまでは記録更新が難しくなることは明らかです。

性能の劣るシューズを履くことで記録の更新が滞るというのは、いかがなものでしょうか。F1の規制のように、速くなりすぎると人命に危険が及ぶといった大義名分があれば理解しやすいのですが・・

厚底シューズ禁止の解除条件は?

規制された場合、永久に禁止なのでしょうか? その場合、ヴェイパーフライシリーズのようなシューズは今後も使用できず、開発もされなくなります。

もしそうだとしたら、何か悪いことでもしたのでしょうか?どう考えても純粋な技術革新としか思えないのですが、罰則とも言える処分を受けてしまうのは納得できません。なので、解除条件を考えてみました。

価格を下げる

“入手のしやすさ”がポイントの一つでしたので、よりリーズナブルな価格設定にすることで規制をパスするかも知れません。しかし同等の性能を維持することは難しいと思われるので、本末転倒ですね。

形を変える

“厚底”に目をつけられているようなので、これくらいならいけるんじゃね?という厚みを模索してみれば可能性があるかも知れません。しかしこの方法も性能の大幅な低下を招くでしょう。

素材を変える

ズームXとカーボンファイバープレートという素材がネックとなっている可能性がありますので、こちらも目を付けられない程度の素材を見つけて欲しいですね。しかし、この方法が最も性能の低下につながってしまうでしょう。

他メーカーが追従してくる

これが一番望ましい解除条件です。例えばミズノは箱根に試作品を投入して、10区の区間記録を塗り替えました。

アディダスも過去にブーストフォームという反発性と軽さを兼ねた素材を開発しています。

天下のアシックスは薄底でもしっかりショックを吸収するαGELという武器を持っています。

ニューバランスに移籍したミムラボも、日本人に厚底シューズは最適解では無いという信念を持ってブレることなく開発を続けています。

なんなら対ナイキプロジェクトを皆で設立してドリームシューズ作っちゃえば?と思うくらい主要メーカーは魅力だらけです。

この煌びやかな世界を前にブレーキをかけるという発想しか出てこなかったとは・・残念な話です。

絶対評価?相対評価?

なぜこんな妥協案としか思えない解除条件を書いてみたかというと、世界陸連が今回の規制について定量的な数値を示せないと思うからです。

もし10年後にこのシューズが出てきたとして、他メーカーのシューズとの間にそれほど性能差がなかったとしたら、今回のような問題に発展しなかったのではないでしょうか。

言うなれば、純粋な技術革新を前にして、矛盾なく客観的に悪い点を示すことなど、できるはずが無いのです。

そのため、相対評価であることが今回の問題の真因なのでは、という気がしています。

ナイキの厚底、どこまで規制される?

ナイキの厚底、といっても複数モデルあるため、どこまで規制されるのかが不明です。規制されるであろう度合いが強いと思われる順に上から並べてみました。

  1. α-フライ(非公認ながらマラソンでサブ2を達成)
  2. ヴェイパーフライ ネクスト%
  3. ヴェイパーフライ4%
  4. ズームフライ フライニット
  5. ペガサスターボ
  • 1.~3.はズームX、カーボンプレートを使用。
  • 4.はカーボンプレート、5.はズームXを使用。

市民ランナーは規制後も履ける?

おそらく履けると思います。理由は、市民ランナーはそもそも記録が公認か非公認かにこだわりのない人が多いと予想されることと、禁止すると大会に人が集まりにくくなる恐れがあるからです。

既にヴェイパーフライを購入した市民ランナーにとっても、後出しジャンケンの規制など到底受け入れられるものではありません。

それでも、もし出場予定の市民大会で禁止されたとしたら、ネクスト%を履いて、ゼッケンを外して、側道を走って、優勝してやろうと思います。

様々な影響

東京オリンピックのマラソン日本代表の3枠目はたぶん大迫選手で決まり

現在のマラソン日本記録はヴェイパーフライシリーズで樹立されたものですので、あと少しの期間で他のシューズに慣れて記録更新することは、たぶん無理です。

なので、厚底シューズが禁止された場合は、大迫選手は東京マラソンへの出場は控えたほうが賢明でしょう。

ナイキ以外の開発の停滞

ナイキ以外のメーカーが、わざわざ規制のかかるかも知れない厚底シューズを開発しようとはしないのでは、と思います。

相対評価であれば、市場に投入して差が埋まることで規制が緩まるかも知れません、それまでの期間はトップランナーが規制を恐れて使用してくれない可能性があり、性能を証明することが難しくなってしまうため、メーカーの開発競争が停滞する可能性がありそうです。

ナイキの独り勝ちは今後もしばらく続く

ナイキはというと、規制が始まれば中間の厚さ、中間の硬度を模索しはじめるでしょう。既に優秀な素材と設計が手元にあるため、”少しリードする”という味付けをしながら、今後もしばらくは市場をけん引するのではないかと思います。

まとめ

忘れてはいけないのが、ヴェイパーフライシリーズは紛れもなく素晴らしいシューズで、企業努力によってもたらされた飛躍的な技術革新の賜物であり、悪者のように扱われるのはお門違いであるということ。

この規制は、各メーカーの性能差が許容範囲内になるまでイタチごっこの様相を呈して続くと思いますが、出る杭を打つのでは無く、他のメーカーがどんどん性能を上げてくることで、問題が収束することを願ってやみません。